電話交換手のさざめきからスタート。
大きなセットがなく回転扉や椅子を上手く使ってるのは、
去年のサザーランド版と共通しつつも、
トミー・チューン版の方がオーソドックスで古風な印象。
シンプルなセットで、主要な登場人物も限られている作品に対して、
大劇場は舞台の間口がとにかく大きいために、
どうあがいても間延びしている感が出てしまう。
オッテルンシュラーグ(夏美ようさん)が舞台端でしゃべってても横幅でかすぎて、
視界に入ってこないとか。
アンサンブルが後姿のまま群像としてバックで踊り続けているシーンも、
これぞ舞台!な美しい光景(これもまた、さざめき)なんだけど、
さすがに人数多すぎで一人こけたら将棋倒し状態、とか。
やっぱりちょっと空間・数のスケール的な歪みが出てた。
あと気になったのは、
ニュアンスのある照明とスポットライトがかち合って、
あれ?と思うシーンがいくつか。
***
フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵(珠城りょうさん)が、
期待通りよくハマってる。
まだまだ若くてドヤ感が皆無なので、
登場シーンは新公みたいな初々しさとぎこちなさでどうしようかと思ったけど、
芝居が進むうちに、なじんでくる。
恵まれた体格と男役らしくこなれた声、
身のこなし、しぐさはまだ固いながらも、しっかり魅力的な「男役」になってた。
タキシードを着こなして、キザなことをさらりと言ってのける色男。
さらに、裏でギャングとつながっていながら貴族の気品を保っている、
影のある危うい二面性もたまきちにぴったり。
で、何より、実のあるところ。
オットーの財布を一度は盗みながらも、返す。
プライジングに襲われているフラムシェンを助ける。
悪に染まり切れず、結局死を招いてしまうその甘さ。
とりわけオットーとの友情と金とのせめぎあいになる男爵の表情が、
何ともいえないやりきれなさに溢れていて、泣いた。
***
ただ、歌はもうちょっと頑張ってほしいところ…。
繊細で美しい音楽ばかりで、
力で押せるタイプの楽曲がないので難しいと思うのだけれど、
特に、Love can't happenは本来は聞かせどころのはずなので…うん。
たまきちだけに限らず、コーラスも含め、
ほぼほぼ全曲、原型をとどめてないというか…
曲の良さがわからないのはミュージカルとしては致命的だと思うので…うん。
あと、どうでもいいけど、
こっそり盗みに入るときの恰好がださい。 もっとカッコいいなりでグルーシンツカヤと出逢いたかったし、
さらには口説いてる真っ最中に結構幅のあるカウチをまたぎ始めて、
何故今このタイミングで…!(白目)と、心中穏やかではなかった。
***
まだまだ成長段階のたまきちだから、
本当はサヨナラ公演とかでやった方が歌や芝居のスキル、男役芸としても、
レベルの高いものができただろうけど、
今回あえてこのタイミングでやったことで、大きな糧になった気がする。
学年的には若いとはいえ、色気のある大人の役ができる貴重な男役だと思うので、
勢いだけじゃなく、1作1作いい作品に巡り合ってほしいと心からのお願い。
エリザヴェッタ・グルーシンスカヤ(愛希 れいかさん)は、
男爵よりかなり年上で引退間近のバレリーナ役。
元々少女っぽいビジュアルなのでどうなるかなと思ってたら、
かなりおばちゃんキャラで攻めてきた。
なので、伝説のプリマとしてのオーラや貫録、気品は薄い。
おまけに、毛量がある方ではなく、頭が綺麗に丸いので、
飾りがないまま髪をひっつめると、
照明の具合によっては丸坊主に空目をする(どうでもいい情報)
ただ、さすが安定のちゃぴ。
歌も安定してたし、トウシューズで踊ったりと大活躍。
そして何より、ちゃんと真ん中のお芝居をするので、求心力が違う。
出てくると安心する。
オットー・クリンゲライン(美弥 るりかさん)は、
可愛らしく頑張っていた。
せっかくの聞かせどころAt The Grand Hotelがよろよろして、心配。
前回はトップが演じた大きな役だから、がんば!
ヘルマン・プライジング(華形 ひかるさん)は、
肉布団を巻いて、ビジュアルからしていかにも社長さんに。
ただ、カーカーの歌(The Crooked Path)はまぁいいとして、
危機的な経営状態→合併だけが唯一の打開策→
なのに、あっさり失敗というくだりがすっぽり抜けているので、
究極まで追い詰められて、美徳が死に、
あそこまで堕ちていってしまうドラマが全く見えなかったのが惜しい。
この役、もっとキーパーソンにしないと、ただのスケベおやじ。
なので、みつるはせっかく久々の大劇場登場なのに、
娘役に服脱がせて迫るただのスケベおやじ。 フリーダ・フラム[フラムシェン](早乙女わかばさん)は、
歌には白目をむきましたが、 等身大の女の子の役でキャラ的にぴったりでした。
個人的に、社長に踊るように命令されて、
その後迫られながらも、
笑顔で踊り続けてかわしてる時の、盆踊り感が早乙女さんっぽくて大好きです、
というか、超緊迫シーンで爆笑しました。
ラファエラ・オッタニオ(暁 千星さん)。
さすがに宝塚だからか、グルーシンツカヤに対して、
そんなに含みのある感情には見えなかった。
衣装の着こなしがあまり綺麗に見えなかったのが残念。
歌は高音まで出ているのに、くぐもっていてクリアに聞こえなかったのが惜しい。
Villa On A Hillは南国ボサノヴァアレンジになってたような。
エリック・リトナウアー(朝美 絢さん)。
数フレーズしか歌うシーンがないのに、
梅芸版でなぜわざわざ藤岡正明氏にしていたかがわかった。
ドラマがひとうねりした後のソロ、めっちゃハードル高い。
すごい手に汗握った。朝美さん、がんば!
グルーシンツカヤのマネージャー ウィット(光月 るうさん)や、
借金の取り立てのためことあるごとに男爵を脅す運転手(宇月 颯さん)が、
的確な滑舌と安定感のある芝居でしっかり爪痕を残してた。
ソロの歌があるわけではないけど、
作品のクオリティってこういうところでぐっと差が付きますよね。
トミー・チューン版のみの登場人物で楽しみにしていた、
盲目の伯爵夫人(憧花 ゆりのさん) 、
ジゴロ(紫門 ゆりやさん)のダンスは時代観が表れていて素敵だった。
このカップルを入れることで、
タンゴからボレロ、ワルツ、ジャズまで、世界観は共通しつつも、
なんてバラエティに富んたナンバーなんだと改めて感じる。
***
ラストシーンが美しい。
純白のマントに身を包んだ男爵とグルーシンツカヤが回転扉越しに、
一瞬立ち止まりすれ違っていく。
そして、男爵はひとり去っていって幕。
なんて美しいんだろうと思ってたのに、もう1回幕開いた。
the grand hotel waltzにあわせてみんな1列に並んで。
ついにはたまきちが銀橋に出てきちゃったり。
ちゃぴと一緒にくるくる踊って幕。
お披露目だし、それまで銀橋を一切使わないので、
宝塚的な画が必要なのはわかるのだけれど、
せっかく綺麗に幕となったのに、蛇足気味に見えた。
あと、ボレロはジゴロ達のダンスではないんですね。
ちゃぴが死のダンサー的に出てきてたまきちと踊り始めた。
サザーランド版は通し役でわたさんが「死」をやっていたので、
ここで男爵と踊るのはわかるのですが、
グルーシンツカヤが死にいざなっちゃダメだろうと。
なんかそこはしっくりこなかったです。
と、何やかんや言いつつ、やっぱグランドホテル、好き。(うっとり)
トミー・チューン版は今回初めてでしたが、
去年観た『スカーレット・ピンパーネル』もそうだったように、
演出家が違うと趣が全然違って面白い。
これこそ演劇の醍醐味だなー。
サザーランド版はREDとGRERN2バージョンあったので、
これで3バージョン目。
それぞれに良さがある。
(ちなみに、サザーランド版の感想は
こちら )
ちなみに、サザーランド版はRoses at the Stationの美しさが圧巻でした。
あと、REDのラストシーン、
ホテルから旅立つ宿泊客とそれを祝福するホテルの従業員たち、
それをそっと見送りながら死とワルツを踊る男爵という図は鳥肌もの。
本当にどちらのバージョンも美しくて大好きだ。。。
VIDEO 1993年のトミー・チューン版もめちゃ気になっている。
Roses at the Stationがなかったと聞いて、
どうやって話に決着つけてるんだろうとか、
どうやってオットーの出番増やしたんだろうとか。
ノンちゃん、さぞやカッコよかっただろうなぁとか。
***
あ、ショーは、
グランドホテルの回転扉のイメージからカル―セル、
モン・パリ90周年ということで、オマージュ的に世界博覧、
ということだと思うのですが、それだけって感じ。
そこから何か展開されるわけでも、
良いシーンがあるわけでもなく、粛々と進んでいきました…。
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